コラム『東京に出会う』

コラム『東京に出会う』

弱冠21歳、気鋭の映像作家 安楽 悠作
コラム Vol.2『東京に出会う』

安楽 悠作
平成9年9月28日生まれ
父親の影響などで小学生の頃から洋画をよく見るようになる。
高校に入ると実際に自分でも何か創りたいと考え始める。
高校卒業後に高校の同級生であり、部活も同じだったメンバー数名で自主映画「ノイズキャンセル」を撮る。同作は第5回元町ショートフィルムフェスティバルに応募され、上映される。
平成31年、自主製作2作目となる「今を吐く」を撮影。
映像はもちろん、脚本や執筆など広く活動していきたいと述べている。
Twitter/@LuckyouSuck

東京に出会う。

東京が様々な出会いの街であることは、住んだことがない僕でも分かる気がする。そう感じさせてくれた出来事がある。


先日、きのこ帝国が無期限の活動休止を発表をした。2007年に大学の同級生で結成された4ピースバンドであるが、僕が初めて聴いた彼らの楽曲は『東京』という曲だ。愛おしい「あなた」へのまっすぐな気持ちと、出会った街「東京」について描いた楽曲はファンの中でも人気の曲のひとつである。この曲を聴いてとても感動した僕はそれから他の曲も聴くようになった。僕はまさに東京で彼らに出会ったのだ。

さて、そんなきのこ帝国の『東京』を僕に聴かせてくれた人がいる。


僕が「彼女」に出会ったのは、ネットの動画生配信サービスであった。


今では様々なアプリやサイトが存在するネット上での動画生配信は、ネット環境とスマホやパソコンがあれば誰でもどこでも視聴者、そして配信者になれる。完成された動画をアップする動画共有コンテンツとは違い、映像や音声を配信しながらコメント機能などを利用して視聴者と「リアルタイム」でコミュニケーションを取ることができることから、一般の素人から現役のアイドルやタレント、政治家まで幅広い人々に利用されているサービスだ。
僕自身は配信者として利用したことがないのだが、視聴者として誰かの配信を拝見させてもらうことはよくある。

数年前、あれは束の間の休暇を終えたおでんが再び店頭に並び始めた頃だったと思う。そういう季節は日が短くなることにどこか寂しさ感じてついつい夜更かしをしてしまう。
読書をする日もあれば、ラジオを聴きながらただネットの波に身をまかせる日もあるのだが、その夜はイヤホンをつないだスマホである生配信のアプリを開いていた。


とくにお目当てがあるわけでもなく、都会の大通りに面した高層ビルの窓のように、規則正しく並んだサムネイルと名前を見ながら気になる配信を探す。清掃業者の人が吊るされたゴンドラから部屋を覗くみたいに。
そうしていくつかの「部屋」をはしごした後、ジブリアニメに出てくるヒロインのようなアカウント名の配信を見つけた。覗いてみるとその配信には映像がなく、海外らしきどこかの殺風景を撮影した静止画を画面に映している。画面上に表示されてる現在の閲覧数は僕を含めて10人もいなかった。

その窓を開いて聴こえてきたのは、若い女性の小さな歌声とアコースティックギターの音色だ。小さな歌声というのは本当に彼女が小声で弾き語りをしていたからで、そのひとりごとのような歌声は、静かな秋の夜長に心地よく漂っている印象だった。
僕が知っている曲、知らない曲、どこかで聞いたことがあるが曲名がわからない曲など、歌手と曲名を前置きしてから歌う。曲と曲の間に歌詞やコードを調べているのか、キーボードを叩く音が鳴る。かすかに遠くで聴こえる車やバイクが通る音は、僕が知る由もないWi-Fiの向こう側を耳打ちしてくれている気がする。ただそんなことを考えながら、気付けばしばらくその世界に身をゆだねていた。画面下のコメントが少ないのは、僕と同じようにみんな彼女の歌声にただ聴き浸っていたからなのかもしれない。
それでも時々ある質問や曲のリクエストに対してやはり小声で答える彼女が、地方に住んでいることと僕と同い年であるということはのちにわかった。

そして夜もかなり深くなり、僕がそろそろ寝る体勢に入ろうとしたとき、ふいに彼女が今までしていた曲名の前置きをせず急に歌い始めた瞬間があった。ギターのイントロもなく、歌詞から入るその曲は聴いたことはなかったが、なぜかすぐに「あ、好きな曲だ…」と思ったのを今でも覚えている。良い曲に出会ったときは大体そんなものだ。そして「この人もこの曲が好きなんだろうな」となんとなくそう思ったのは夜更かしのせいだろうか。だとしても、彼女が歌うその曲に歌詞以上の優しさと温かさと寂しさを、その夜僕は感じたのだ。

そうして僕は東京に出会った。

その後歌詞で調べると、きのこ帝国に出会うまで時間はかからなかった。
聴いてみるとやはり良い曲で、今では「東京」を描いた数ある名曲たち中でもとくにお気に入りの1曲なのは言うまでもない。


出会いがあればもちろん別れもあり、バンドの解散は寂しい。
しかし、僕がきのこ帝国に出会ったのも、あの夜明け前の東京を聴いたのも、それについてこうして書いているのも全て、僕や誰かの思いが交差したからだ。つまり出会いと別れの交差点は必ず何かを生み出す。そういった意味でやはり大都会「東京」は果てしない。

しかし『BOY MEETS ART』って良い名前だ。
人とアートの交差点である彼らの行く先や会う人々には、きっと何か面白いことが起こる。そんな気がする。僕にもまた良い出会いがありますように。もちろんあなたにも。

安楽


Photographer / Iwagoshi Daichi
@g_____osiii
Direction / Umetani Hinako
@1975tyiffy
graphic/Thisako
@chisasaco

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