コラム『リクエスト』

コラム『リクエスト』

弱冠21歳、気鋭の映画脚本家 安楽 悠作
コラム Vol.5『リクエスト』

安楽 悠作
平成9年9月28日生まれ
父親の影響などで小学生の頃から洋画をよく見るようになる。
高校に入ると実際に自分でも何か創りたいと考え始める。
高校卒業後に高校の同級生であり、部活も同じだったメンバー数名で自主映画「ノイズキャンセル」を撮る。同作は第5回元町ショートフィルムフェスティバルに応募され、上映される。
平成31年、自主製作2作目となる「今を吐く」を撮影。
映像はもちろん、脚本や執筆など広く活動していきたいと述べている。
Twitter/https://twitter.com/LuckyouSuck

最初は何と言っているのかが聞き取れなかった。

「明るい接客をお願いしますね」

 ある深夜のコンビニエンスストア。夜遅くまで客足の絶えないお店であっても、日付が変わる頃になると店内放送のボリュームが上がるような気がする。閑散とした店内に東京の誰かがリクエストした冬の曲が流れている。残りわずかのおにぎりを棚の手前に引き寄せて整列させながら、その曲名を思い出そうと鼻歌で歌詞を追う。

 水曜と土曜の夜は大抵1人でお店をまわすことになっている。ワンオペと言うとなんだか仕事ができてかっこいい感じもするが、実際は孤独だ。品出しをしながら鼻歌を歌ったって、掃除をしながら踊ったって誰も気にしない。明るすぎる照明とバックルームでチェックしたカメラ割り、入店音がカットの合図になる。歌い終わると何事も無く日常生活に戻るミュージカル映画のワンシーンみたいだ。

 その日の独り舞台にカットをかけたのは店の固定電話だった。サビに来てようやく曲名がわかったところだ。薄暗いバックルームから聞こえる着信音に走る。より一層キーが高くなった歌声が遠ざかる。

 電話に出て驚いたのは、受話器越しの低く湿った声にぞっとした、だけでなく思わぬタイミングの予想もしていない言葉に戸惑ったからだ。

「はい…?もう一度お願いします」
「明るい接客をお願いしますね」

 男性の声。食い気味で繰り返す。

「暗い街でいいならいいんですけどね?」
「え…」
「だからね、暗い街になってもいいならいいんですよ?」
「あ、いや…それは良くないですけど…」
「だったらね、あなた自身が明るい接客をすればね」
「はい…」
「子どもたちもね沢山いるわけですよ」
「はい」
「あなたがいいならいいんですよ?」
「」

 深夜3時前にかかってきた電話の主は、どうもアルバイトの僕に明るい接客をしてほしいらしい。ただそれだけだった。彼が何者なのかは最後まで分からなかったが、店や僕に対するクレームではなかった。いたずら電話や理不尽なクレームはよくあることなので適当に聞き流してしまってもよかったが、他のお客さんもいなかった上にその話はどうも他人事に思えなかった。
 そうやって真剣に話を聞いていると彼は電話の最後に「あなたは立派な志を持ってはるから」と始めとは違う柔らかい口調で言った。何をもってそう感じたのかは分からないが、どうやら満足してもらえたようで僕はなぜかほっとしていた。

 映画やアニメで、未来に起こる悪い出来事を自分だけが知ってしまった主人公が、家族や友人にそれ話してどうにか未来を変えようとするが誰にも信じてもらえない。みたいなはシーンはよくある。僕は幼い頃からそれを見るたびに、孤独な主人公に対して可哀想な気持ちを抱いていた。僕自身は知っているのにスクリーンの前ではなにも助けてあげられない。だからもし自分がそういう話を持ちかけられることがあれば、絶対に信じて味方になってあげようと決めていた。今もその気持ちがないわけではないが、僕も色んな意味で少し大人になった。

 ここ最近、マスクで顔を覆った人が増えた。一方お店の棚はどこも空っぽで、誰も悪くないのにお詫びの紙が貼られている。さらにネット上ではもっと顔の見えない、いつになく心無い言葉を目にする。それこそすでに街ごと何かのウイルスに感染してしまったかのように、暗く重たい空気が漂い始めている。
 そんな中でも今、本当に色んなところで色んな人が頑張っていて、世界中の数え切れない人からのリクエストに答えようと必死で闘っている。「マスクないの?」と聞いて残念そうに冷えピタとスーパーカップのバニラだけを買っていったお母さんもきっとそうだろう。

 自分にもできることはないだろうか。そう考えて電話越しの声を思い出す。コンビニはどの街にもあって24時間いつでも開いている。だからアルバイトであってもそこで働く者の接客や振る舞いが一帯に住む人々に影響し、地域の雰囲気を作るということか。だとすると、明るい接客というのが具体的にどういうものにしろ、それによって今と闘う世の中の「主人公」の味方になれる時かもしれない。
 そうして僕はいつもの2倍口角を上げて接客をするようにした。もちろんマスクの中で。

安楽

Writer / Anraku yusaku @yousuck_anraku

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